19%の年代もあればマイナスも。S&P500「平均10%」の落とし穴
誰もが同じ数字を口にします。株式市場は年率およそ10%のリターンを生む、と。あらゆる老後資金シミュレーターの前提であり、「とにかくインデックスに投資すればいい」という主張の根拠にもなっています。この数字自体は間違いではありません。ただ、それが示していること以上に、隠している事実のほうが重要です。
まず、少し居心地の悪い事実からお伝えします。年率10%の10年間を実際に経験した投資家は、ほとんどいません。 この長期平均は好況と不況が入り混じった結果であり、一つひとつの10年間を見ると10%とはまったく違う姿をしています。この数字を根拠に30年単位の資産計画を立てているなら、その数字が実際には何でできているのかを理解しておく必要があります。(この平均値が時間とともにどう積み上がっていくかは、複利の仕組み(英語)で解説しています。)
データ:9つの10年間、まったく異なる結果
配当を再投資したS&P500の年率トータルリターン(名目、インフレ調整前)を、10年ごとに区切ると次のようになります。
| 年代 | 年率リターン(名目) | 背景 |
|---|---|---|
| 1930年代 | 約-0.1% | 世界恐慌 |
| 1940年代 | 約9.2% | 第二次世界大戦+戦後の回復 |
| 1950年代 | 約19.3% | 戦後好況(最も好調な年代) |
| 1960年代 | 約7.8% | 安定成長、後半にやや失速 |
| 1970年代 | 約5.9% | スタグフレーション、オイルショック |
| 1980年代 | 約17.6% | ディスインフレ下の強気相場 |
| 1990年代 | 約18.2% | ハイテク株主導の強気相場 |
| 2000年代 | 約-0.9% | ITバブル崩壊+2008年金融危機(「失われた10年」) |
| 2010年代 | 約13.6% | 金融危機後の強気相場 |
「年率10%」は統計上の蜃気楼です
この表の中から、年率10%に近い年代を探してみてください。最も近いのは1940年代(9.2%)で、現代以降ではこれが唯一10%付近に達した年代です。それ以外の年代はすべて、好況(年率17〜19%台)か不況(横ばい〜マイナス)のどちらかでした。
長期投資を理解するうえで、これほど大切な事実はありません。平均値は「平均を計算した結果」であって、実際のどの10年間を描写したものでもない、ということです。市場はリターンを均等には配りません。長く落胆させられる期間が続き、その合間に力強い上昇局面がまとまってやってくる——そんな配り方をします。
同じ「インデックスを買った」はずの二人の投資家
同じ金額を、まったく同じ方法で、ちょうど10年間投資し続けた二人の投資家を想像してみましょう。
- 1990年代の投資家は、年率18.2%の10年間を経験しました。
- 2000年代の投資家は、年率-0.9%の10年間を経験しました。
それぞれ100万円を投資してそのまま10年間置いておいたと仮定して計算すると、次のようになります。
| 投資家 | 年代 | 年率リターン | 10年後の100万円の価値 |
|---|---|---|---|
| 1990年代の投資家 | 1990年代 | 18.2% | 約532万円(約5.3倍) |
| 2000年代の投資家 | 2000年代 | -0.9% | 約91万円(元本割れ) |
仮定:100万円を一括投資し、10年間追加の売買なしで保有。上表の年率リターンをもとに(1+r)^10で複利計算。
戦略も、インデックスも、忍耐強さも同じです。それでも結果はまったく異なります。理由はただ一つ、いつ投資していたかです。実際にこの計算をしてみると、その差の大きさに正直驚かされます。腕前や戦略の差ではなく、純粋にタイミングの差が生んだ結果です。だからこそ、投資を始めた時期の順番や投資期間の長さがこれほど重要になり、たった一つの10年間だけを見てインデックス投資が「機能するかどうか」を判断できない理由もここにあります。一度にまとめて投資せず、時間を分けて積み立てていくことが大切なのも、この点と深く関係しています。積立投資(ドルコスト平均法)(英語)がタイミングを狙うことより重視される理由の一つでもあります。
自分の資産計画にとって何を意味するのか
ここから得るべき教訓は「株式市場はコイン投げのようなものだ」ではありません。30年以上という期間で見れば、好況の年代と不況の年代は歴史的にある程度相殺し合ってきており、平均値は最終的にその姿を現します。本当に重要なのは投資期間です。
- 短い期間(おおむね10年未満):平均値はほとんど役に立ちません。1950年代のような年代に当たることもあれば、2000年代のような年代に当たることもあります。近いうちに使う予定のお金を、「年率10%」という前提に賭けるのは避けましょう。
- 長い期間(30年以上):平均値が意味を持ち始めます。複数の年代を順に経験することになるからです——良い年代もあれば、悪い年代もあります。悪い年代を投資を続けたまま乗り切ること、それこそがすべてと言っても過言ではありません。
もし「失われた10年」に直面した際に、底値で売らざるを得ない状況に陥るとしたら、そもそも年率10%の平均を享受できる立場にはなかったということです。その平均値は、売らずに持ち続けた人だけのもの(英語)だからです。
押さえておきたいポイント
- S&P500の長期名目リターン約10%は、両極端な年代の平均であり、典型的な10年間の姿ではありません。
- 年代別リターンは**約-0.9%/年(2000年代)から約+19.3%/年(1950年代)**まで幅があります。
- 見出しの10%に最も近づいたのは1940年代(約9.2%)だけでした。
- 同じインデックス戦略を使った二人の投資家でも、投資した年代が違うだけで、一方は約5.3倍、もう一方はほぼ資産が増えないという結果になりました。差を生んだのは腕前ではなく、投資したタイミングです。
- この平均値は約10年未満では当てにしにくく、30年以上では意味を持ちます。 長い期間には複数の年代が含まれるためです。
- ここで示した数値はすべて名目リターンであり、特に1970年代のように物価上昇率が高かった年代では、インフレを考慮すると実質リターンは大きく下がります。
「年率10%」という目安は嘘ではありません。ただし、それはゴールであって、そこに至る道そのものではありません。道のりは決して平坦ではなく、実際にその平均値を手にしてきた投資家とは、10%にはまったく見えない年代も含めて、最後まで投資を続けてきた人たちなのです。
よくある質問
S&P500の平均年間リターンはどのくらいですか?
長期で見ると、S&P500は配当再投資込みの名目リターンで年率約10%を記録してきました。ただしこの数字は、まったく性格の異なる複数の10年間を平均したものです。2000年代の年率約-1%から、1950年代の年率19%超まで幅があり、実際に滑らかに10%を記録した年代は一つもありません。
S&P500の歴史上、最も悪かった年代はいつですか?
しばしば「失われた10年」と呼ばれる2000年代です。ITバブル崩壊(2000〜2002年)と2008年の金融危機が重なり、名目トータルリターンで年率約-0.9%となりました。世界恐慌に見舞われた1930年代も、実質的に横ばい〜マイナス圏でした。
年代によってリターンがこれほど違うなら、10%という平均値に意味はあるのですか?
30年以上という非常に長い投資期間では意味があります。好調な年代と不調な年代が、歴史的にある程度相殺し合ってきたためです。一方で短い期間では誤解を招きかねません。2000年代の10年間だけ投資していた人はほとんど資産が増えず、1990年代の10年間投資していた人は資産がほぼ5倍になりました。投資期間が短いほど、平均値に頼れる余地は小さくなります。
このリターンはインフレ調整済みですか?
いいえ。ここで示した数値は配当再投資込みの名目トータルリターンであり、インフレ調整前の値です。実質(インフレ調整後)リターンはこれより低くなり、その差は1970年代のように物価上昇率が高かった年代で最も大きくなります。名目リターンが高く見えても、物価上昇を考慮すると大きく目減りすることがあります。